NEC製8ビットパソコン・PC-8801シリーズ編

80年代当時、国内では「8ビットパソコンの標準機」とまでいわれたNECのPC-8801シリーズ
作者が当時の体験談を交えながら解説します。
ちなみに作者はかつて、PC-8801mkⅡPC-8801mkⅡSR(※サウンドボードⅡ仕様)、そしてPC-8801MA2を当時所有していたことがありました。
そんなわけで、そんな作者の当時の体験を綴ってみました。

この記事は、2024年3月下旬に修正されました。

PC-8801

作者自身も、はじめてこのパソコンをみたときは驚いたものだった。
また、その当時このパソコンを所有する友人や知り合いを、非常にうらやましく思ったのも事実であった。
(当時は学生時代の先輩が、このパソコンを所有していた)

そんなわけで、作者がパソコンというものに興味を持ち始めてから間もなく、雑誌でよく「PC-8801」というパソコンをみかける様になった。
しかし、本当にその実物をみるまでは、本体とキーボードが分離したセパレート型と呼ばれる構成だということを知らず、キーボード部が「本体」で、実際の本体の筐体は「拡張ユニット」か何かなのだろう…と思っていたほどである。
当時はそんな構成を持つパソコンに憧れたものだった。

そんな当時のこと、作者の住む地元にNECの販売店が開店した。 ここぞとばかりに店に赴くと、そこにあのPC-8801がフルシステムで展示されていた。
当時8801は、まだ「業務向け」という位置付けがかなり強く、当時学生だった作者たちは、店頭であまり触らせて貰えなかったのが事実である。
だが、画面に表示される漢字表示は細かく、そして美しく、当時のPC-8801は、40桁×25行の漢字表示を楽々こなす「業務パソコン」とまで呼ばれていた。

PC-8801は、NECが発売した8ビットのパソコンである。
前述の通り、その外観は、本体とキーボードが分離したセパレートタイプの構成であった。
本体の筐体には、拡張ボードなどの内臓が可能となっていた。意外にもその差し込み口は、初代の8801が一番多い様だ。
CPUには、当時8ビットでは御馴染みの米ザイログ社の「Z80」を、同社が製造した互換CPUである「μPD780C-1」が搭載されていた。また、その動作クロックは、4MHz(※「メガヘルツ」)であった。
これは当時の8ビットパソコンの標準的なクロック数であった。また、同社の8ビットパソコンのすべてに、このCPUが採用されていたものと思われる。
メインRAM(※メインメモリ)は64KB(※「キロバイト」)。うち、グラフィック用VRAMがいくらか用意されていた。
そのためこのパソコンは、8ビットでは初めて640×400ドットのフルカラーによる高精細表示を実現していた。
つまり、この手のクラスでは先ず第一級のグラフィック表示機能を搭載していたのはいうまでもない。
ここでいう当時の「高精細」とは、画面表示の際、ドットとドットの間に、ほぼ隙間のない精細な表示を実現する事を言い、当時の8ビットパソコンでは、中精細の表示が一般的であったが、8801は高精細表示に対応していたのである。

また、同社のラインナップであるPC-8001に搭載されたBASIC言語…「N-BASIC」の上位互換として、「N88-BASIC」が搭載されていた。
これは、8801の特有の機能を活かせるよう、命令の拡張・追加などが成されている。
また、当時の補助記憶媒体であるフロッピーディスク版のN88-BASICは強力で、これらのノウハウは、後に上位機種となる「PC-9801」シリーズに、末永く採用されることとなった。
ちなみにPC-9801の漢字の表示機能は、同じく最大40桁×25行の表示が可能であった。これは後に、「N88-日本語BASIC」にも採用された。

そんな8801のサウンド機能としては、ブザー音のみしか対応していなかった。このあたりは、8001系とまったく同じであった。

ところで8801は、同社のラインナップであるPC-6001系(※別頁)/PC-8001系(※別頁)に比べれば、「高級感」なイメージが非常に強い。
しかし時代の流れのごとく、いよいよ16ビットのCPUが搭載されたパソコンが発売されるという噂が流れ始め、そのマシンのカタログを、ある日、作者は当時馴染みだった店員から渡された。
…それが、前述した「PC-9801」(※別頁)だった。

PC-9801が発売されてからは、なんとなくPC-8801は影が薄くなった様に思えた。
…実に不思議だった。
今まで業務用のパソコンであった、あの8801が…いつのまにか地元の例の販売店でも、また、他の家電製品店でも、ホビー的な分野に変わっていったのだ。
やがて9801は、「PC-9801F」、「PC-9801E」として、マイナーチェンジが施されていった。
ちなみに前者の本体価格は398,000円。
まだ高価なフロッピーディスクユニットを本体に内蔵したその「豪華な本体」は、当時とても手の届く価格ではなかったような気がした。

この頃、同社発売の6001系、そして8001系が、相次いで「mkⅡ」の型番へと変更された。
そんな中8801は、ずっとそのままの姿でモデルチェンジする事はなかった。
だが、この時8801に、わずかなモデルチェンジ…というよりも、どこか別路線に向けての動きがみられた。
それは、ワープロ専用マシンとしての変身であった。
ソフトと専用キーボードを接続して、効率の良い文書作成を目指したパソコンへの進化を狙ったものだった。
…しかし、作者が当時みた感じ、どうも不発に終わっていた様だ。
それでも、8ビットパソコンの市場からは8801が「絶対に」消えることはなかった。

GAME

ところでこの頃、上位機種である9801が発売されてからしばらくの後、前述した通り、実は不思議に8801系の販売されているソフト…特にゲームソフトに大きな変化がみられた。
これは、何かの「前兆」ではないか?…という具合に、当時かのゲームメーカー・エニックス(※現・スクエアエニックス)主催のプログラムコンテストを起点として、8801のグラフィック機能を駆使した、実に見事といわんばかりのゲームソフトが続々発売されてきたのである。
色合いは足りないが、滑らかなスクロールを実現したアクションゲーム、また、フルカラーの可愛らしいキャラクターが動き回るゲームなど、当時は実に様々なものが出揃っていた。
このとき作者は確信した。
まもなく8801は、mkⅡとして発売されるぞ…と。
そして、作者が中学校を卒業する頃の事である。その予感は見事に現実となった。

PC-8801mk2

発売されたばかりのその「PC-8801mkⅡ」は、実にシンプルさを感じさせるデザインのパソコンであった。
いや、これまでの「業務用」というイメージを幾らか払拭している様にも思えた。
遊びで打てば、遊びの達人」…当時のテレビのCMのキャッチフレーズだが、そのCMさえあのときのいいようのないワクワク感が、いまも忘れることはできない。
本体は以前に比べてキーボード・本体とも格段にコンパクトになった。
本体はベージュ系のホワイトに塗色され、セパレートタイプの構成は変更されずに横置き、縦置きのどちらにもできるタイプの本体となっていた。
それでいて、5インチのフロッピーディスクドライブを二基搭載していた。
その搭載したドライブの数で製品が分けられ、二基搭載されたものが「モデル30」、一基のみが「モデル20」、そして…完全にディスクユニットがレスになった「モデル10」が用意された。
ちなみにディスクの記憶容量は、両面320KB(※規格は「2D」/一基)であった。 当然のごとく、データレコーダも接続端子が用意されており、これまでの製品を接続可能だ。 この時、前述の通りNECは既に9801にも新しいラインナップを加えていたが、その周辺機器であるディスプレイやプリンタなどは殆どが一新された。
作者の記憶にある限り、CRT(※ディスプレイ)において、安価で高精細表示を実現したディスプレイ・「PC-KD551」の存在が挙げられる。(ちなみに当時、同社の最高級のカラーのディスプレイといえば、「PC-8853/※K」であったと思う)
ところでPC-8801mkⅡには、グラフィックの描画機能にわずかな変化がみられた。
それは、速度的にわずかなのだが速くはなっていた。
また、以前ではオプションだった漢字ROMも内臓された。そして、サウンド機能に一つ機能が追加された。
従来のブザー音に変わり、単音ではあるが、数オクターブの音楽演奏が可能となったのだ。
当時8ビットパソコンの全盛の時代は、このパソコンの登場によって始まったものと思って良い。
そして、ディスク装置の本体への内臓は、瞬く間に他社のパソコンも「右に倣え」の如く、対応を始めていった。
では、この当時、PC-8801mkⅡの「対抗馬」として、他社が同時期に発売したパソコンをみてみよう。

まず富士通が、「FM-77」(※別頁)という、3.5インチディスクドライブを内臓したパソコンを発売した。
また、同社の主力機種であった「FM-7」の型番について「FM-NEW7」に変更、コストダウンを図った。
(※FM-7は、CPUとキーボードが一体化した本体のみの構成)
富士通は8ビットのパソコンでは珍しくモトローラ社の6809」という型番のCPUを採用していた。
同社は8ビットパソコンとしての一つの違う路線を目指したのは事実である。

さて、もう一社忘れてはならないのがシャープである。
同社はそれまで「X1」(※別頁)という型番で、テレビ画面とコンピュータ画面を合成して表示するという「AVの先駆け」的な機能を実現したパソコンを既に投入していた。
しかし、追いつき追い越せのごとく、ホビー性を持たせたこのPC-8801mkⅡを投入したNECに対し、シャープは真っ向から対抗した。
当時でもなかなか個性の強いメーカーであったシャープは、この新たに投入されたPC-8801mkⅡに突如アッパーパンチを喰らわせるべく、凄まじいと言わんばかりの新機種を、その年の暮れに投入してきたのである。
…それが、「X1turbo」(※別頁)であった。

…そんなパソコンを投入してきたシャープに対し、NECはすぐには動かなかった。
当時のシャープのパソコンの情報誌には、十数ページにわたって同機種の特集が組まれていたが、「PC-8801mkⅡなど、問題外の外のクツの裏であり…」という、なんとも強烈でネイティブなレビューが掲載された程であった。
…だが、それでもPC-8801mkⅡは、すぐには進化しなかった。
…というか、同社が対抗するためのモデルチェンジは、このとき成されなかったのである。
むしろ同機種は少しずつゆっくりとビジネス・ホビーと、ソフト面の方が充実されつつあった。
また、対応メディアが、ちょうど従来のカセット版から、フロッピーディスク版へと移行され始めた頃でもあったのだ。
8801は、もとからカセットテープ版のソフトが、まだわずかにシェアを占めており、それをフロッピーディスクに落とし、高速に立ち上げができる様な環境を、ユーザーは整えていたらしい。
…そして、同機種に対応したソフトウェアが、いよいよ正規のフロッピーディスク版として各メーカーから販売され始めた頃、NECは新たな8801を投入したのである…!

PC-8801mk2sr

その新たな8801は…「PC-8801mkⅡSR」と呼ばれた。
基本的な性能は従来の機種と同じだが、「SR」の型番として新たに追加された機能は、大幅な強化が成されていた。
まず、互換性を保つために、従来の8801と8801mkⅡの二つのモードを備えていた。

これらは後に、「V1S・V1Hモード」と呼ばれる様になった。
そして、グラフィック機能面に加えて、サウンド機能面も同時に強化された。
まずグラフィック機能では、従来ではデジタルRGBの方式を採用していたのに対し、新たにアナログRGBの方式が採用された。
この方式は、後にパソコンメーカー各社において、定番的な方式となった。
しかし、NECはこの方式を他社に先駆け最初に採用したため、他社メーカーのパソコンは、この方式に大きな遅れをとってしまう結果となった。
さて、そんなPC-8801mkⅡSRの持つ、グラフィックの表示機能は強力で、従来のものに加えて表示できる画面の数が増えていたものと思われる。さらに扱える色数は格段に増えており、4096色中、16色の表示が可能となっていた。
そして、サウンド面。
こちらは発売当初、この機種のキャッチフレーズであった、「サウンド・オブ・サイエンス」のその名の通り、従来の単音のブザー音に加えて、FM音源による3和音演奏と、PSG音源(「SSG」)による3和音の合計6和音の同時演奏が可能となった。
別の言い方をすれば、よりリアルな音が楽しめるようになったのである。
そして、これらの新機能を扱う新たな動作モードとして「V2モード」が設定された。
このように、当時最新の技術を搭載し、他社に負けない機能を実現したPC-8801mkⅡSR。
当時は、いよいよこのパソコンが8ビットパソコンの市場の王座を得るかに思われた。
そして、この機種の登場によって、当時のソフトウェアメーカーの各社は、この機種を、ある意味このクラスの「標準機」として選択したのであった。
いわば、まずこの機種を「元」として、ソフトウェアを開発し、それから検討の上、他機種への移植と販売をしていこうという、暗黙の決まりの様なものが出来上がったのであった。
そんな他社のユーザーにとっては、少し理不尽な話ではあったものの、PC-8801mkⅡSRは、非常に域の長い「標準的な8ビットマシン」として、その市場に長く残ることとなったのだ。

…しかし、やがてこのパソコンにも不運が訪れることとなった。
先に述べておくが、mkⅡSRは前述した通り「標準的な8ビットマシン」としての地位を得てはいたのだが、他社に対抗するあまり、次々と新たなモデルを投入せざるおえなかったのである。
当時の競争という時代、それは仕方のなかったことなのかもしれない。

先ず最初に、SRの型番よりコストダウンを図った廉価版として「PC-8801mkⅡFR」、そして、時代のニーズに合わせた通信機能を強化したモデルとして、本体の筐体に通信用 の機器である音響カプラ(※なんと本体側面部に固定電話の受話器が一体化したもの)を搭載した、「PC-8801mkⅡTR」が、それぞれ市場に投入された。
さて、FRはいたって好調だったようだが…TRについては、やはり一般受けしなかった様子で、すぐに消え去ってしまった悲運の機種となった。
…ただ、現代で言えば、そこに電話回線があれば、いつでも通話と通信ができる携帯のようなもの(…は言い過ぎか)というコンセプトだったのかもしれない。

さて、8ビットのパソコンのその方向性がホビー指向として強まる頃、NECはその上位のパソコンであるPC-9801シリーズに力を入れようとしていた。そしてこの時期、8801をはじめとする8ビットパソコンは全盛期を迎えており、「これ以上の機能は必要ない」…かにみえた。
しかし、8801は進化を続けた。
それは他社メーカーの8ビットパソコンも同じであった。
フロッピーディスクドライブの容量が、やがて320KB(※規格/「2D」)のものから、その数倍の1MB(※規格/「2HD」)、つまり現在でいうフロッピーディスクの最終規格の容量(※正確には1.44MBが最終 であった)になり、初期の2HDの規格が主流になりつつあった。
だが、当時販売されていた一部の16ビットパソコンでも、まだその容量の半分の640KB(※規格/「2DD」)という状況の中、8ビットにして異様な進化というものが目立っていた。
また、それは日本語処理機能にもいえた。
パソコン内部に搭載された漢字ROMは、JIS第1水準は当たり前とされていたものの、それに加えてJIS第2水準までもが搭載されるようになったのだ。
作者自身、いま思えば「やり過ぎ」なのではないかと思った。
なぜなら、当時の時代が16ビットマシンに移り変わろうとしていた頃の話であったからだ。

さて、これまで前述した8801の新たなラインナップの機能を一部満たしたパソコンは、他社メーカーからも次々と投入された。
この時期、前述の通りNECはフロッピーディスクドライブの容量を増やした「PC-8801mkⅡMR」を発売、前述の漢字ROMをJIS第2水準まで搭載し、さらに日本語(※漢字)が扱えるN88-日本語BASICまで用意した。
確かに日本語が使用できるBASIC言語は使えそうな気はしたが、実際はもう8ビットのパソコンでわざわざプログラムを組んでまで業務をこなすという時代ではなかった。
また、そんなソフト開発は、もう必要ないとまで言われ始めていた。
なぜなら、プログラミング言語の主流は「C言語」に移り変わっており、もはやBASIC言語ではその処理速度が遅く対応できない時代だったからだ。

さて、この時期富士通がようやく高精細な表示を可能にした「FM-77L4」を発売、同時期にシャープも「X1turboⅢ」という機種を発売した。(※前者は400ラインの高精細表示、後者は大容量のフロッピーディスクドライブを本体に搭載)
ある意味、「ほぼ同じ機能」での競争が続く。
実はこの頃、富士通とシャープはNECと比べてグラフィック機能などのその関連した機能について大幅な遅れをとっていたのだ。
たとえばシャープは、ディスプレイ表示形式がデジタルRGBのままで変更はしなかったのだ。

そんな中、8801の製品体系は、「PC-8801FH/MH」にまとめられた。
このとき本体とキーボードのデザインが一新されたが、FHとMHの違いは、従来のFRとMRシリーズの違いに留まった。
また、FHについては、そのホビー向けの位置づけとして黒い筐体なども発売された。

これらの機種の変更箇所は、CPUのクロックが4MHzから8MHzに変更となったことであった。 ちなみにこれらは、本体の切換えスイッチで切り替え可能である。
当然のごとく、従来の旧8801の機能もそのまま継承され、また起動できるようになっていた。
つまり、前述した各種モードは、引き継がれていたのである。

今回そのCPUについては、およそ二倍のクロック数が実現された。だがそれは、従来のものにクロックアップを施しただけのものであった。
当時本家大元であるザイログ社が16ビット版の「Z80」である「Z80H」を開発していたが、NECが採用したのはそのCPUではなく、あくまでも同社が開発した従来の「μPD780C-1」のクロックのみを強化したものだったのである。

それからまもなく、そんな8801が更に進化を遂げた。
FH/MHの後継として、今度は「PC-8801FA/MA」が発売されたのである。
次の機種の変更箇所は、サウンド機能の強化のみであった。
FM音源の内部のLSIそのものが変更され、機能の強化が図られたのである。
また、変更部分は専用のユーティリティで対応でき、同梱されたN88-BASICにも専用の命令が追加され、その機能はいかんなく制御することが可能であった。
こうして同機種は、FM音源の3和音までの演奏が6和音演奏までに拡張され、さらにリズム音源に加えて「AD-PCM」による再生機能が加わった。
ちなみにAD-PCMは、実際の音をサンプリングして再生が可能な音源である。(※後に登場する、シャープの16ビットパソコンにも採用されていた)
これで実質、同機種はサウンド機能において8オクターブのPSG音源3和音に加えてFM音源6和音、さらに専用のリズム音源に加えて、AD-PCMの再生(※録音)機能を実現したのだ。
(AD-PCMは一声だが、実際の音を吹き込むため、そこで和音での音声を録音したりすることは可能)

さて、当時のパソコンゲームでは、そのゲーム中のBGMにおいて際立ったものが非常に多く、それが重要視された頃でもあり、この機能を駆使した素晴らしいゲームが多数発売されていた。中には実際にCDとして発売されるものも多かった。
また、それが当時の多くのファンを魅了し、時を同じくしてパソコンの「ゲームミュージックの全盛時代」を迎えていたのも、この頃であった。
ところで前機種であるFHとMHには、専用の拡張ボードにより、それぞれをFAとMAに拡張することができる様になっていた。
…ならばその拡張ボードの販売だけでもよかったのではないか…?というユーザーからの疑問の声も、実は密かに上がっていた。
そんな中、後にこれらの拡張ボードは、「サウンドボードⅡ」という商品名で発売され、FHとMH以前の機種でも、その対応版が発売された。…もちろん、古い機種(※mkⅡ/SR系)でも新しい機種と同じく、その機能をプログラムから制御することは可能であった。(※但し、古い機種では内部に内蔵されたスピーカーからは音声は出力されない)

さて、この頃の他社の動きをみると、シャープのX1がようやくFM音源ボードを発売するが、BASICなどのプログラム言語による制御ができないうえ、その機能の対応については既に大きな遅れをとっていた。
また、富士通も同じ音源の機能を持つ拡張ボードを発売していたが、対応したソフトウェアは少なかった。
…ただ、「FM音源」の機能については、当時NECのパソコンにはなくてはならない機能となっており、16ビットパソコンへ移り変わろうとしていた当時、同社は既に上位のPC-9801シリーズの一部の機種に、その機能を搭載させていた。
その理由として、8801ほどではないが、9801でも一部でゲームソフトの数も増えてきており、また、FM音源に対応したものも、多くなっていたのだ。

…やがて本格的に16ビットのパソコンへと移り変わる時代がやってきた。
しかし、NECは8ビットのパソコンの販売の姿勢を崩さなかった。
正直作者は、当時FAとMAで8801シリーズは終わりかと思っていた。
…しかし、依然として8801の進化は続いていた。
(※ここでは割愛しているが、16ビット版のPC-8801シリーズは存在はしていた)

そんなわけで、その後もF系とM系の進化は更に更に続いていく。
やがてF系は、「PC-8801FE」として小型化が図られ、その上に価格が下げられた。
定番となったサウンドボードⅡはオプションとして専用のものが用意された。
但し、拡張性は完全に失われていた。
一方、M系は「PC-8801MA2」として、MAの価格の値下げが行われた。
また、ディップスイッチの設定がROM化され、日本語処理関係も辞書の一部がROM化された。
これは、BASICなどで、日本語(漢字)の変換スピードを上げるためのものと思われた。
かくして一応の8801シリーズは、この2機種によって終わりを告げた…かにみえた。
しかし、終焉はまだもう一つ先となった。

そのあとも8801シリーズは、まだ続く。
もはや当時では補助記憶媒体として当たり前となったCD-ROMが、当時同社から発売され人気を得ていた、かのテレビゲーム・「PCエンジン」に搭載されたのを機に、8801にも、この装置が搭載されたものが発売された。
それは「PC-8801MC」という機種であった。そして、M系の最終進化型である。
本体が縦置きのタイプになったが、そのデザインは決して良いと言えるものではなかった。
しかし、CD-ROMという機器を加える事によって、新たな8801の道が開くかにみえた。 …だが、その豪華な機能とは裏腹に、なかなかに販売は難しかった様だ。
作者の知る限り、同機種のCD-ROMの専用ソフトが発売されていた記憶はあるが…知っていたのは一本だけであった。
また、その後も引き続き対応したソフトウェアが発売されたのかどうかは、作者も知らない。
おまけとして実はF系も、「PC-8801FE2」として最終進化を遂げたらしい。
ちなみにこの機種には、あのオプションであるサウンドボードⅡが標準で内蔵されていた…ということであった。
これらの二機種を最後に、8801は生産終了となった。
立派に日本の8ビットパソコンとして長きに亘ってその務めを果たしたこのパソコンに、敬意を表したい。


※追記事項 PC-8801は、PC-8001の上位互換機である

記載するのを忘れたわけではないが、PC-8801はPC-8001への「Nモード」への切り替え機能が搭載されている。
勿論、当時はカセット版のソフトなどは問題なく使えたし、販売店でPC-8001を使用したいとき、実機はないが8801が置かれていれば、それで代用することもできたわけだ。

ところでそのモードへの切り替えは、いたって簡単である。
もうネットでは掲載されている当たり前の情報だが…BASICを起動した時点で、「NEW ON 1」と入力してリターンを押すだけである。
但し、この機能を搭載されていないPC-8801もあるので、注意が必要である。
おそらくは、そのへんのことも、ネットでは公開されていることだろう。…ただ、機種によってはその機能が搭載されていないものもあるとのことなので、注意が必要だ。
で…。
実は今度は、そのNモードから、もとの8801のモードへ戻す方法もある。
これは技術情報ではないが、確か「OUT &H51,0」…だったと思うが、実機がないので保証はできない。(※「&H」がない10進表記だったかもしれない)
試せる方は、試してみるのもいいかと思う。

※追記事項 PC-8801に用意された「マウス

…これは多分、「PC-8801mkⅡSR」シリーズ以降のものに用意された周辺機器だと思われるが、当時はこの機種にもマウスが販売されていた。
その型番は、確か「PC-8872」で、価格は9,800円(※税抜き)だった思うが…あまり普及していなかった様に思う。
ところでこのマウスは、パソコン本体の電源投入時に、マウスの左ボタンを押したままにしなければならないらしい。
そんなちょっと変わった周辺機器であった。

さてこのマウス…作者は、なんとシャープのX1turbo用として使用していたことがあった。
実は本体へ接続用のコネクタの規格は、X1用のものと同じ「Dサブコネクタ」を使用している。つまり、ゲーム用のコントローラ…いわゆる「ジョイスティック」としても使用できるのだ。
但し、ここで注意が必要である。
本来のそれは、コネクタの何番かのピンに、「+5V」の電源が必要となっている。つまり、そこから電源を通さないと動かないというわけなのだが、本体内にある拡張スロットのうちの一つ(※ボードの差込口にも+5Vを出力するピンがある)から、この電源を取り出し、それを差込口の該当するピンに、コードなどで接続してやるとよい。
また、起動時にはマウスの左ボタンを押す必要がある。

…ただ、当時作者はそれでグラフィックツールを使用していたが、現在やってうまくいくかどうかは不明である。
多分、現代でここまでする方はいらっしゃらないだろうが、その際は「改造行為」となるため、あくまでも自己責任でお願いしたい。